経済性についていうことは経木折箱の受持っている分野の性質上、使い拾てでなけれぱ意味がないということです。
行楽、旅行の弁当用として携行する場合、土産物の容器として軽装かつ、かさばらず、強度の高いものでなければならない。
右に叶うということは、安価であることを特別に要求されます。
そのために先輩達は、経木を使ってその要求に応えるべく折箱を作ったのです。
木材のひき板を使って容器を作れば非常に頑丈で、重量感もあり、美しさも十分、力も強く容器としていうことないのですが、造る過程で量産能率が低く、需要家の要求する予算の範囲での価格で大量に製造することは非常にむりなことです。
そこで考えたのが日本の古来からある経木を使って造るということです。その経木も明治初年北海道の開拓が進むにつれ、エゾ松経木が生産きれるようになって急速の進歩をとげました。
なぜならば、エゾ松の持つ素材の良さと、白木で使った場合の食品容器としての優秀性、適合性(それは木の香りの臭いがなく、ほとんど無臭に近く、かすかな木の香りは日本人のとくに永年親しんできた木香である)によったからです。なおかつ経木を原材料にすることによって今まで考えられぬ程の量産ができたことと、木材の使用立方量を最少限にとどめることによって、原材料原価を安くあげたことです。
それが需要家の要求する予算採算の範囲内の価格で安価に販売できる体制となったからです。
(持ちあるき場所の移動積重ねに耐える)
折箱の主な用途は、弁当用、おみやげ物用、簡単な引出物として使われるのです。
弁当用の場合、持って行った先で、ひらいてみれば折箱が弱かったばかりに、中身の食物がつぶれていたのでは困るのです。このことはおみやげ用、引出物用の場合にもいえることです。
自然の木材の繊維ほど強力強度なものはありません。それを最高に生かして作ったのが経木折箱です。
たてに加わる圧力、横に引っ張られる張カ等に対して、2枚に合板することによって薄い経木のひ弱な力を2乗になる強力なものにしました。それを折箱の側としました。なんと立派な造型ではありませんか。薄くともその繊維を張り合わせた力は、物を入れて何段に重ねてもびくともしません。
先づこの造型によって場所の移動(持ち歩き)がはげしくても、耐えることができるということを解決しました。
(腐敗についての対処)
折箱を食品容器として使う場合、中身の食品のできたてを入れて、持ち歩いた先で、食べるまでの時間の経過はかなり長時間をついやすことが多いのです。
とくに日本人の好む弁当食は水分が多く、日本の風土の亜熱帯的気候ではかなり条件がむずかしいので高温多湿の春から秋にかけての時季には、特に食中毒のおそれがつきまとうのです。
この間題を解決するために私達の先輩が生活の知恵として作り出したもので、白木をそのまま利用して食物の容器を作るということを産み出したのです。
その代表な姿が飯びつの白木のおひつです。(白木の通気性、吸湿性が最大適性要素)。
時間が経過するということは、生ものの鮮度が落ちてゆくということです。しかし何等かの方法で処理し、何等かの入れ物に納めることによって、鮮度の落ちることを引き延ばすことができないかということです。
このことについて私違の先輩達は知っていました。生きているものを納めるためには、生きている素材の中に納めるということです。その最高の姿が正倉院のあぜくら造りです。
高温多湿の日本の風土に適合する最適の条件が備わった容器です。人類の知恵というほかありません。
日本人の食生活は美的感覚につきるのではないかと思われます。
春は花、夏は涼、秋は月、紅葉、冬は雪、その時々の候に風情を感じて目でみて、いや心の鏡にうつる姿を楽しむことこそ風流と心得、それこそ真の生活と信じ、日々を豊かにしたものです。
自然の美しさ、素材の良さ、特に木材の木目の美しさを人々は大昔から知っていました。
風雪にさらされ、たくましく育った力強い繊維の強じんさは、ある時は柾目とをり、ある時は木目となって生きつづけました。
その生きたままの姿を使って、さからわずその美しさ良さを生かして、それを原材料として使い生活を豊かにした、先祖の知恵は、生きるよろこびということにつきると思います。
アメリカの女流小説家でノーベル文学賞受賞者のパール・バック女史をして、「清潔無比の薄い板の箱」と賞讃せしめた折箱は、日本の高温多湿の気候風土の中で、最も適した食品容器として、1500年の歴史を積重ねて今日に至っており、その素朴な形姿は、質素を旨とする日本人の心をとらえて離さないものがあります。
我々の業界では、単に伝統にのみすがっているのではなく、現在の食生活の多様化と共に時代の要求に即応出来る態勢作りに日夜努力いたしております。
我々は、全国規模の組繊をもち、食品衛生法の自主管理を行い、関連の諸団体と共に、常に新しい素材・形状・製造法等の研究をしながら、木製品はもちろん、プラスチック・紙・アルミ等あらゆる食品の包装に適した容器を巾広く扱う専門業者の団体として、他に類のない伝統とまとまりを見せており、多くの顧客からは絶大な信頼を受けております。
古きをたずね、新しきを知る、これをもって日本古来の木の良さ、木のもつ不可思議なものを追求しながら、新しい時代に添った食品容器としての折箱を、より新しい本物の容器として、皆様の要望に答え得るものにして行きたいというのが、我々折箱製造業者の基本的な考えであります。
海外でも日本食がブームにより、日本の良いものを求める動きがあります。今一度、日本独自の発展をとげた「折箱」に注目をして頂きご意見・ご批判を頂きたく存じます。